2018.06.20 | 流通(retail)

流通企業向けエスノグラフィー③アパレルで通販より実店舗を選ぶ意味

昨今の流通企業を取り巻く市場の大きな変化に対し、それに対応した顧客理解やユーザー視点の施策については、いまだ明確な答えが見つかっていないという企業が多いのではないでしょうか。

当連載では、SEEDATAエスノグラファーの宮下氏が、実際に店舗での消費者の購入体験や、商品購入後の消費者にエスノグラフィー(行動観察)とインタビューを行い、流通や小売に今後より求められるであろうユーザー視点に立った顧客理解の方法について事例を交えながらご紹介していきます。

第3回の今回は、20代OLの休日の消費行動から見えてきた、実店舗での買い物の価値について分析します。

第1回、第2回はコチラ→流通企業向けエスノグラフィー①顧客が実店舗に求める価値とは?

流通企業向けエスノグラフィー②主婦にとっての店舗を回るという行動の持つ価値

アパレルがECサイトではまだ実現できていないことを、消費者は実店舗に求めている

今回は都内に住む20代OLの休日の行動観察をもとに、そこから浮かび上がってきた実店舗での買い物に求められる価値についてご紹介します。

対象者は都心に住む24歳OL。まず、この日の流れをざっくりと説明すると、観察した日は親しい友人とカフェに行くことから1日が始まりました。

両国に気になるカフェがあるということで、散策をしつつカフェに向い、屋外でバーベキューができたり昼間からワインが飲めたりするようなカフェで、対象者はワインを飲みつつ、友人と2時間くらい語らいあって過ごしました。カフェでゆっくりとすることが休日のひとつの過ごし方として定着しているとのことでした。

カフェからの帰り道は、夏モノのズボンを購入するため、有楽町駅前の商業施設に寄ったのですが、店内に入ってすぐに先日試着したというズボンを手にとり「このサイズはありますか?」と店員に伝え、即決で購入しました。

その後は化粧品を買うためドラッグストアに寄ったのち、バスで地元駅まで移動し、自宅近所のスーパーで生鮮食品を購入し、夕飯を作るというのが大まかな1日の様子になります。

今回のテーマは、現在の消費者が実店舗でないと買えないモノをどのように捉えているかという点です。

そもそも、服などはECも発達しているため、実店舗でないと買えない理由はあまりなくなってきています。しかし、対象者は一度試着をしたのちに購入を決めていました。試着した際の話を聞くと、会社の飲み会の時間まで3時間くらい時間があったためふらっと立ち寄り、夏物を買いたかったのでサイズ合わせをしたということでした。

このときに重要なのは、サイズ合わせでどの部分を重要視していたかという点です。

最近はZOZOSUITなどもあり、ECでも限りなく自分の体にフィットする服選びができるようになりつつあります。しかし、ZOZOSUITで計測される場所やサイズは、胴の周りの太さや足回りの太さなどですが、彼女がみていたのは実際の着丈だといいます。

つまり、股下のサイズが表記されていても、靴の高さもあるし、浅めに履いたときに自分の足がどのくらいきれいに見せられるか、靴下と合わせるなら少し短めでもいいかなど、実際に履いてみて調整したいという価値観があったのです。

また、このことから、Tシャツなどよりズボンのほうが現場に行って試着しなければならないという、ジョブも発見することができました。

ZOZOSUITといった新たなテクノロジーが出現し、期待されている部分もありますが、このように実際の消費者を細かく調査してみると、やはり洋服を選ぶ際は、まだ実際に着てみなければわからないと思っているのです。

ただし、今後テクノロジーがさらに進歩し、足の裏からくるぶしまでの長さや、足首までの長さと、腰からくるぶしや、足首の長さなどの割り出しが可能になれば、購入したいパンツの裾がどの位置にあたるかという点まで正確にわかるようになります。そうすると、着丈を実店舗で合わせなければならないというジョブは解消され、ECでも問題なく買えるようになるでしょう。

次に、生鮮食品に関する観察の結果です。彼女は、前日にサッカーの試合をテレビで見ているときにカレーのCMを見て、カレーを作ろうと思ったそうです。スーパーでの観察をしていて非常におもしろかったのは、前回の主婦の観察と同様、やはり鮮度の問題が大きいという点です。今後ECが発展していったとしても、「鮮度は自分の目で確認したい」と思う消費者にとって、ECで送られてくる自分で選別できない生鮮食品に対して、本当に鮮度が高いのかという不安は残るのではないでしょうか。

なかでも象徴的だったのはアボカドで、アボカドがどれくらい熟しているかをその場で触って確認するという行動です。熟し度合いも、当日食べる場合と明日以降食べる場合というタイミングによって選ぶ基準も変わるはずですし、自分好みのタイミングで食べたいという思いがあるはずです。

これも裾の着丈を合わせるのと同じで、実店舗に行かなければ現在は確認できないことです。しかし、実際に世の中に存在するテクノロジーに目を向けると、農業系では流通段階で野菜の形が不出来でも、栄養価は変わらないため、栄養価の高さを基準に野菜を選別する技術も既に出ていますし、同様に、どの程度熟しているのか、含有している成分が、流通段階でどのように変化したのか店舗で確認できれば、生活者にとって魅力的な店舗になるはずです。

消費者にとっては、食べたい時期に最適な食品を選び取れたり、栄養価が正しく把握できることが、実店舗におけるジョブを解消することとなり、競合店舗との差別化に繋がるのではないでしょうか。

こういったテクノロジーは流通段階で既に導入されていることも承知ですが、消費者からは見えない流通段階で野菜の選別を行っても、消費者は店舗でさらに鮮度を判別して食品を購入しています。ならばいっそ、中間流通で活用されるテクノロジーを、店舗で体験可能にすることで、魅力的な売り場設計ができるのではないかというのが今回の観察から感じたことです。

生鮮食品は実店舗で買いたいというのが集客のひとつのきっかけになっていますが、たとえば、よりECに向けた施策を行う場合、これらの技術をもとに、何日目に食べるのに最適といったデータを正確に計測できたり、栄養価をデータとして出したりすれば、生鮮食品を普段なかなか購入できない人でもECで生鮮食品を購入することができるはずです。

もちろん、実店舗の価値をより魅力的に上げるという立場に立っても、今は流通の裏で行われているテクノロジーを利用し、鮮度の高さ、栄養価の高さを表に出すという方法は有効です。

このような仕組みが実装されれば、この店舗のほうが栄養価が高いものがあるとか、好みの熟し度合いを間違いなく選べるという新たな購入基準が生まれ、主婦や料理をする人にとっては大変参考になるはずです。

もちろん店舗側からすると、流通の段階で選別の仕組みを入れてるので、新鮮さや栄養価などは最低限はキープされているはずですが、そこが今は表立って消費者には見えていないから、消費者は巷で噂されている鮮度を判別する基準に基づいて、感覚的に選んでしまっている状態といえます。

しかし、手にとって触って選ぶという行為は、店舗の体験としても好ましくなく、消費者が必死に鮮度の高いものを選ぼうとする作業で鮮度が落ちていくこともあるわけです。

実店舗に求められるものは、本当に栄養価が高いものをよりきれいな状態で保存するとか、データに基づいて、「これならおいしい」と確信を持って買うことを手助けしてくれる、消費者が購入に失敗したと思わないで済む体験です。そうすると毎回「私が食べたいものの食材選びを手伝ってくれる」という体験ができる店舗になっていくはずです。

生鮮食品を購入するうえで、上記のような正確な鮮度や栄養価などの数値やデータを活用する体験型の店舗にチャンスがあることに加え、一度実店舗でデータの収集さえ出来てしまえば、データに基づいて配送してほしいという消費者が増え、店舗の売り場面積を縮小させ、在庫を配送していくセンターのようにする、デジタルトランスフォーム化も進められるのではないでしょうか。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

SEEDATAでは、独自に定義した先進的な消費者群(=トライブ)のリサーチを通じて、企業のイノベーション支援を行っています。

また、当記事に関するご質問、流通小売り企業様からの共同リーサチの相談はinfo@seedata.jpまで、件名に『流通企業向けエスノグラフィーについて』、御社名、ご担当者名をご記名いただき、お気軽にお問合せください。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・