2018.06.04 | 流通(retail)

流通企業向けエスノグラフィー①顧客が実店舗に求める価値とは?

昨今の流通企業を取り巻く市場の大きな変化に対し、それに対応した顧客理解やユーザー視点の施策については、いまだ明確な答えが見つかっていないという企業が多いのではないでしょうか。

そこでSEEDATAでは新たに流通企業向けに、今後流通や小売りに求められる必要な施策についての連載をスタートさせます。

SEEDATAエスノグラファーの宮下氏が、実際に店舗での消費者の購入体験や、商品購入後の消費者にエスノグラフィー(行動観察)を行い、今後より求められるであろうユーザー視点に立った顧客理解の方法について事例を交えながらご紹介していきます。

ユーザー視点で「顧客が実店舗に足を運ぶ意味」を考える必要がある

現在の小売市場とかく実店舗を取り巻く環境の変化は大きく、わかりやすい話でいうとECではAmazonが非常に勢力を伸ばしており、ECのみならず、アメリカでは既にAmazon Goなど実店舗にまでどんどんその範囲を広げようとしている状況です。

ECの需要拡大といえば日本でもAmazonの使用経験のある人がほとんどでしょうし、先日Panasonicが持ち家向けの宅配ボックスを開発したことなどは記憶に新しいのではないでしょうか。

EC拡大の流れはもはや止めることはできず、たとえばカクヤスが地域の配送サービスでミネラルウォーターを買う主婦のニーズをがっちり掴んだという成功事例があるように、実店舗に買い物に行き、重いものやかさばるものを持つのが嫌という人などを中心に、今後も広がっていくでしょう。

「小売りの実店舗はモノが売れなくなってくる」という事実を真摯に受け止めたうえで、ユーザー視点を持って「顧客が実店舗に来る意味」を考えなければいけません。

これまでの小売り業界はバーコードやポイントカードを使ったID-POSが顧客理解のツールとして活用されていました。典型的な顧客理解の方法としてRecency(最新購入日)、Frequency(購入頻度)、Monetary(購入金額)の3つの要素でセグメント化し、優良顧客と非優良顧客を順位づけしていくRFM分析を利用している企業は非常に多いと思います。

しかし、昔の小売りは店舗に実際に並べられる商品の数や、そもそも棚にも限界がある中で、いかに「優良顧客にもっとたくさん買ってもらうか」を考えて棚を最適化し、商品を陳列しておけばよかったのですが、現在競合のAmazonなどは棚がないわけで、顧客は好きなものをいつでも買えてしまう。そうなれば優良顧客が店舗から離れたり、購買金額が減っていくということはわかりやすい今後の課題であるといえます。

最近ではID-POSデータで「どんな消費者がいつどこで何を購入したか」は分かるので、どういう風にもっと購入してもらうかを、店舗の棚の配置や棚の見せ方、演出の仕方などをソリューションとして提供する会社も出てきています。

たとえばカメラを設置し、顧客の行動を追跡して、それを解析してもっと顧客に購入してもらうための陳列の仕方などを分析するというような方法も行われています。

しかし、現在の市場の動向を考えたときに、従来のRFM分析ではそもそもある問題あるのです。

RFM分析には店舗で購入してくれた人のデータは入っていますが、購入していない人のデータは当然なく、小売りにカメラを設置しても、そもそも来店していない人をどう巻き込んでいくかという方法は見つけにくいという欠点があります。

このまま優良顧客に最適化するだけでは、ECにどんどんお客を取られ、その差は開いていくばかりです。

では、実際に定性調査を活用して何をすべきかという点ですが、来店時の購買体験を見ることも重要ですが、どちらかというと、来店した理由や意味などの前後の文脈を追うとこが重要になってくると考えています。

ここから、先日私が行った行動観察の具体例を交えて解説いたします。

対象者は杉並区に住む25歳の男性。彼は設計事務所で働いているハードワーカーで、だいたいいつも22~23時頃に最寄り駅に着く生活をしています。

スーパーへの来店頻度は週に1~2回、平均購入金額は1000~2000円、おそらくRFM分析ではあまり優良顧客とはいえないでしょう。

スーパー=日頃の食品や日用品を購入する主婦層に向けて最適化されているので、彼らのような層はどんどん寄り付かなくなっていくという象徴的な顧客だといえます。

彼のスーパーでの購買行動を観察しつつ、実際に家に帰って商品がどのように活用されているか観察させていただきました。

今回とくに注目すべき点として、購入したモノの中には豚バラ肉がありました。生肉を購入したということは何かしら手を加え調理する必要があります。何故、彼が豚バラを購入したのか、自宅で観察して話を聞いたのですが、購入したその日に食べるわけではありませんでした。

インタビューから、肉だから冷凍保存もできるし、家にあったキムチや味噌といった調味料で味噌炒めや豚キムチも作れる、作ったものを冷蔵庫で保管することこそが彼にとっては非常に重要ということがわかったんです。

彼は平日22~23時頃に帰宅するので平日は料理をせず、基本的に土曜の朝や比較的時間のあるときに1週間分の料理を作り、夕食はいつも作り置のおかずを食べているし、お弁当にもそれをも持って行きます。

可処分所得を考えると外食を頻繁にできるわけでもないので、自炊をしなければいけないというジョブを持っているともいえるでしょう。

では、彼が土曜の朝に一気に料理する理由はなんとなくわかりましたが、彼がどのタイミングで店舗に来店するかというと、だいたい買い物は金曜の仕事が終わった後なんです。そこで1週間分の食材を買うというわけですね。

一般的な主婦などとの違いは、そもそもの来店できる時間が遅いという点。

多くのスーパーは、主婦やシニアの方は朝9~10時~18時くらいの間に来店し、その時間に一定の売り上げが立っています。

しかし、彼のような深夜の時間にしか行けない人にとってはスーパーに行くメリットが少なく、あまり行く意味を感じられないのではないかということが観察から見えてきました。

というのも、夜中にスーパーに行っても鮮度の高いものはあまりなかったり、そもそも棚に生鮮食材が少ないんです。彼は自炊をする人なのでレシピ本を見て「こういうものを作ろう」と考えているんですが、実際に棚には買いたいものが既にない場合が多く、結果、いつも同じものや、使いまわしがきくものしか買えなくなってしまうという状況があるんです。

実際に彼が料理をする様子を見たときも、計量しながらレシピに忠実に作っていて、食事自体を楽しみたいという欲求があるように感じました。

彼のような「レシピを見ながら自分が食べたことのないものを作ろう」という料理にポジティブに取り組む人にとっては、夜中のスーパーの陳列で、ほとんどモノの選択肢がない状況には、店舗としての魅力はほんど感じられないはずです。

そうなると、実際に料理を作ろうと思えるタイミングはいいのですが、疲れているときはコンビニの弁当を買うこともあるでしょうし、仮に3年後、彼の可処分所得が増えたら、彼のような人がスーパーに行く理由はなくなってしまうのではないでしょうか。

冒頭で、今小売りはいかに実店舗に集客するかということが重要というお話しましたが、現在集客の方法としてよく使われているのがポイントやクーポンによる割引です。

ただクーポンによる割引は、競合といかに価格の差で勝負するかということなので、集客にはなっても利益も食いつぶしていまい、仕掛ける側にとってはあまりいい施策とはいえません。

クーポンによる割引がなくても、行動観察で消費者の購買行動とその後の生活の様子を知ることができれば、もっとユーザー視点で魅力的な集客のコミュニケーションができるのではないかと考えています。

たとえばスーパーのアプリでは、過去に購入したものを中心にレコメンドされるような仕組みがありますが、彼がレコメンドされたいのは、普段頻度高く買っているものというよりも、帰宅時間が遅いからこそ、自分が今店内にあるもので何を作ったほうがいいのか、レシピをわざわざ探して食材を探し求めるという行動を省いてくれるレコメンド機能ではないでしょうか。

夜中の店内の商品を増やすというではなく、残っている商品の中で、この食材とこの食材を組み合わせることでこういう料理ができる、それが数日の間、日持ちするというコミュニケーションをとったほうが、来店の動機付けになり、購入金額も上がる可能性が高いのです。

これまで彼は、レシピを見て週に三品程度作っていましたが、今ある食材の中でレシピやバランスを考えていた部分を省くことができれば、彼にとっては店舗に足を運ぶきっかけになるのではないでしょうか。

実際にクーポンを配信するタイミングも重要で、最近ではアプリから位置情報も取れるので、職場から最寄り駅に移動しているという行動が分かれば、20代の独身男性をどう集客するかという視点を考えることができます。

このように、店舗に足を運ぶ理由や意味付けが重要になってくる中で、私の考えた「1週間の食事体験をお得に楽しめる」という提案自体が、今までの分析フレームでは非優良顧客と切り捨てられていた層の購買意欲を高めることに繋がるのではないかということが、今回の観察から見えてきました。

このとき切り離せないのが経済的部分で、若年単身世帯があまり可処分所得が多くないと仮定したとき、総菜も便利ですが作り置きのほうがコストパフォーマンスが高いというのはゆるぎない常識です。

彼の食事の風景を観察していると、食材を作り置きのために買ってはいますが、料理には時間がかかるので、パンを食べながら1週間分の仕込みをしていたんです。総菜はあくまでその場ですぐ食べるものと位置づけており、ライフスタイル的に毎日スーパーに行けるわけはないので、スーパーに来店するメインの目的は、1週間分の食事を安く仕込むための生鮮食品を買うことといえます。

今回行動観察したスーパーでは、単身世帯で遅い時間に購入するという層をある程度とらえていると思いますが、残った食材でどう単身世帯を捕まえるかという施策は、今後さらに考える必要があるでしょう。