ロベルト・ベルガンティ『突破するデザイン』にみる、”意味のイノベーション”とは?②

前回は、SEEDATAアナリストの佐野さんに、ロベルト・ベルガンティの著書『突破するデザイン』をご紹介いただき、従来のデザイン思考を取り入れた問題解決型のイノベーションだけではなく、意味のイノベーションも行うべきであるというお話をおうかがいしました。ユーザー起点ではなく、デザイナー自身が本当に必要なものを内から発していくことで、新しい意味を生み、愛される商品になるといいます。では、意味のイノベーションの成功事例は他にどのようなものがあるのでしょうか。

ロベルト・ベルガンティ『突破するデザイン』にみる、"意味のイノベーション"とは?①
今回から4回連続で、SEEDATAアナリストの佐野さんにご登場いただき、ロベルト・ベルガンティの著書『突破するデザイン』で語られている、従来の問題解決型のイノベーションではない、"意味のイノベーション"についてお話していただきます。 ...

デザイン思考はもともとテクノロジーに偏った研究者のマインドセットだった

佐野「実際の事例として、有名なのはUberですね。もともと、人々はタクシーに乗っていて、その時の意味は、人々はタクシー会社を信頼しているからタクシーに乗っていたんです。でも、タクシー会社自体を本当に信頼しているのか?という問いかけをすると、本当はドライバーを信用しているということがわかります。

であれば別にタクシー会社経由で乗らなくても、ドライバーが信頼できる人であれば、その人の車に乗ればいいというデザイナーの主張、新しい意味の提案からこのサービスはできているんです。

実際、タクシーに乗る場合だって本当にそのドライバーを信じられるかどうかなんてわからないですよね。そこでUberはドライバーの評価システムを作って、ドライバーの信頼を担保できる仕組みを作ったんです。そうして新しい意味を達成したんです。

この意味ができて初めて、解決策が出てくるはずなのですが、意味を考える前に「人々の課題はこれだから解決策を」とやっていると、現状の不満とか不安を改善することはできても、それを超えるものは生み出せない、「今ない未来を創り出すことはできない」イノベーションだとベルガンティは指摘しています」

-新しい意味が生まれるには、たとえばどのような条件が必要なのでしょうか?

佐野「技術を使って新しい意味が生まれる場合もあって、たとえば自動運転なんかは技術としてかなり強いですね。そうすると、車は自分で運転するものではなく、自動で動くからこそ、車を働かせる時代がくると思います。勝手にその辺でタクシー替わりにして稼いでくれる、これまでは移動する手段だった車が稼ぐ手段に意味が変わっていく可能性がありますよね。それがテクノロジープッシュといわれています」

-今後はデザイン思考という考え方はどうなっていくのでしょうか?日本ではまだデザイン思考も新しい考え方としてとらえられていると思うのですが。

佐野「ユーザー自身が「あれが欲しい、これが欲しい」というニーズはどんどん小さくなっているので、デザイン思考は縮小していくと思います。ただ、デザイン思考自体の意味もどんどん変わっているので、一概にはいえません。

デザイン思考という考え方が出てきた根本をお話しすると、そもそも技術にしか関心がなく、自分がやりたい技術だけを研究していたスタンフォード大学の理工学部の研究者たちから始まっているんです。彼らの研究って、研究者自身は楽しいものかもしれないけれど、人々が本当に欲しいものなの?という。もっとユーザーに目を向けて「ユーザーは何が欲しいか聞いてみよう」というところから始まっているんです。ユーザーに聞くことで、ユーザーはこれが欲しくて、テクノロジーはこれができるというところから商品開発をするべきだというのが、もともとのデザイン思考の考え方なんです。

最近よくいわれているデザイン思考って「とりあえずユーザーに聞けばいい」と思っている人が多いのですが、デザイン思考という言葉のとおり、もともと技術やテクノロジーに偏っていて、内に閉じこもってしまう人だからこそユーザーの意見を取り入れるべきだ、というマインドセットだったんですね。言葉だけが独り歩きして、どこの会社もユーザーに聞きに行った結果、改善はできるが、ユーザーが考えてもいなかった、見たことも聞いたこともない新しい製品は生まれにくくなっているんです。

新しい商品はやっぱりデザイナー自身が内から考えなければいけないんですよね。もろちん、ユーザーに聞く必要がないのではなく、ユーザーの意見をそのまま聞くのではなく、デザイナーが主観的に自分で解釈する必要があるんです」

-ベルガンティは「新しい意味はデザイナー自身が考えなければまったく新しい商品はできない」と言いますが、それだと、そもそもデザイン思考ができる以前の問題と同様に、独りよがりなものになってしまうのではないでしょうか。

佐野「ベルガンティが「今のデザイン思考は不十分で、もっと意味を考えるべき」と問題提起したのが2009年に出た『デザイン・ドリブン・イノベーション』で、このときはどうやって意味を考えるかという方法論は書いてなかったんです。それはみんなで解決しましょうと。そこから8年後に書かれた、『突破するデザイン』は、ベルガンティなりにその方法論を考え、実践した内容になっているので、方法論についてはのちほど説明します。

たとえば、今までの問題解決では、質より量でとにかくアイデアを作って、そこから評価、選択をし、アイデアを実行していたのですが、それだと問題解決しかできない。新しい意味を付与するためにはデザイナーが解釈するんですが、この解釈をするときにはなにかしらの事実が必要なので、このときにインタビューやエスノグラフィーを行うんです。インタビューする相手も一般の普通のユーザーだと新しいものは出てこないので、先進的な人たち=トライブにインタビューしたり、トライブをエスノグラフィーして、デザイナーが解釈し、実際形にしてみる。これがSEEDATAの場合、SD/Vにあたるんですが、アイデアをプロトタイプ的に形にして実際にユーザーにあててみる。ここで初めて改善ができて、これを繰り返しやっていくことで新しい商品ができるんです」

-ベルガンティが指すユーザーというのはSEEDATAのトライブとは同じような先進的な人々なのでしょうか?

佐野「ユーザーと人とトライブがあって、商品が出て、商品を使う一部のユーザーがいて、基本的にデザイン思考が注目するのはこのユーザーで、今、すでにその商品を使っているユーザーがいて、その商品について聞くんです。

でもベルガンティが言ってるのは、ユーザー中心ではなく、人中心に考えるべきだということなのです。より多くの人々が愛するものってなんだろうと、人が根源的に愛するものを指しているんです。

たとえばiPhoneってこんなに多くの人に利用されて愛されている、ユーザーというより多くの人にとって何が必要なのかを考えて、スティーブ・ジョブズが内から外に出したものじゃないですか。あれってユーザーにいくら聞いても「音楽も聴けて、あれもできてこれもできるものが欲しい」という声はなかなか出てこないんですが、それが出てくる可能性があるのがトライブなんです。

ユーザーとトライブには距離があるんですよね。トライブは変わっている人だから、現状に対して普通の人は感じないような何かしらの不平や不満がある人たちで、たとえば、ユーザーは携帯とiPodとお財布を持ち歩くのが普通だけれど、トライブはそれが面倒だからもうすべて持ち歩くのをやめたとします。じゃあ、トライブの人たちが持ってくれるような商品ってどんなだろうと。先進的な人たちをリサーチすることで、新しい意味を見出しやすいんですよね」

-トライブの概念はSEEDATA独自のものですが、ベルガンティはどのように解釈しているのでしょうか?

佐野「いい質問ですね(笑)。ベルガンティは基本的にはデザイナーが内から発し、ビジョンを掲げろといっています。デザイナー=世の中に対してちょっと批判的で、もっと世の中ってこうなるべきなんじゃないかと常に考えている人たち。そういう人たちが、未来に向けて、こういう商品やサービスが必要だと考えていくことが重要なんです」

-なるほど、デザイナーというのはメタファーでもあり、世の中に対して批判的な目線をもっている人という点では、トライブと合致しますね。愛されるデザインを作るにはデザイナーがビジョンをもつべきであるというお話が出ましたが、ビジョンをはぐくむためには批判精神が必要だと。

佐野「はい、ベルガンティは批判精神を持ち、ものごとを批判的にとらえようと言っています。ただ、生活をする中で色んなものを批判的に見ることが大切と言っていますが、その方法を具体的には書いてないんですよね。そこはやはり具体化とか体系化はできない、こうしたいという欲望やビジョンは人それぞれ自然に生まれてくるものなので。

ただ、今あるものを「これが完璧ではないんだ」と、世の中を常に批判的に見ること、これはSEEDATAエスノグラフィーの話でたびたび登場する、クリステンセンのジョブ理論に似ていますね。今あるすべての商品サービスは人々にとって代替解決策で、もっとよいものができるはずというのがジョブ理論です。そういう目線で世の中を見ていると、ビジョンがはぐくみやすいのではないでしょうか」(第3回に続きます)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

SEEDATAでは、独自のエスノグラフィー調査を行っています。ビジネスにエスノグラフィーを取り入れたいという方はinfo@seedata.jpまで、件名に『エスノグラフィーについて』、御社名、ご担当者名をご記名いただき、お気軽にお問合せください。

https://seedata.tokyo/blog/ethnography/22/

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

https://seedata.tokyo/blog/ethnography/102/