新規事業を実行・実現するビジネスデザイナーとは?

「ビジネスデザイナー」という言葉を、最近耳にしたことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、具体的にどんな職種でどんな能力を持っているのか、ご存知ない方も多いのではないでしょうか。Googleで「ビジネスデザイナー」と検索すると、2018年頃から「ビジネスデザイナーとは何か?」という記事がちらほらと登場するようになりました。そこで今回はSEEDATAなりのビジネスデザイナーの定義と具体的な仕事内容をご紹介したいと思います。

新規事業は企画が1割、実行が9割

SEEDATAでは最近新たな職種としてビジネスデザイナーを設けました。

もともとSEEDATAは新商品や新規事業アイデアの発想を支援するために、先進的な生活者=トライブのデータベースや、未来を洞察するための記事のクリップ集=Future Waveを使い、新商品や新規事業のアイデアをアナリストという職種の人たちが考えてきました。

これまでは新しいアイデアを考えることが難しい時代だからこそ、コアとなる企画の部分で革新的なアイデアを作れる人が、新商品開発においては求められていました。

しかし、残念ながら新規事業の場合は企画だけではうまくいきません。

新商品は企画が9割、実行が1割といわれていますが、新規事業はその逆で、新しく販売チャネルを構築したり、ビジネスモデル自体を作る必要があるため、企画が1割、実行が9割といわれています。新商品は短期(1年程度)のスパンで実装ができますが、新規事業は軌道に乗るまで長期(3年程度)の時間を要します。

だからこそSEEDATAでは、このような新規事業を実行・実現するための特殊部隊として、ビジネスデザイナーという職種を設けました。彼らは新規事業を実装することに特化したプロフェッショナル集団なのです。

ビジネスデザイナーとは、「サービスをビジネス(事業)として成り立たせるために、ビジネスモデル(儲けの仕組み)を設計することができるプロフェッショナル人材」であるとSEEDATAでは定義しています。

製品やサービスのアイデアだけでは価値がないということは読者の皆様もひしひしと感じていることかと思います。アイデアというのは実現されて初めて価値を持ちます。

しかしユーザーにとって価値がある製品やサービスでもお金にならない、つまりビジネスとして成立しないものが多々ある中で、それらをどのようにビジネスとして成立させるか、社会実装していくかを考え、実行していくことがビジネスデザイナーに求められています。

少し話は変わり、先ほどビジネスデザイナーはプロフェッショナル人材といいましたが、これは今の社会だからこそ求められる次世代の専門性だと考えています。

これまでの専門性を持った人材とは、たとえば会計士、弁護士などの士業と呼ばれる人たちがあげられます。一方ビジネスデザイナーは、今の時代に必要とされている専門家です。

何故なら、今や会計士も弁護士も、ある程度知識が形式知化され、本や教科書を読み勉強すれば専門性が身につく時代になりました。ところが、ビジネスデザインに関してはまだまだ未開拓で、本を読んでも身につくものではありません。前述したとおり企画1割、実行9割の世界のため、実行し、行動しながら専門性を身に着けていく必要があります。

現在SEEDATAならびにSD/Vでは、この実際に行動して身につけなければならないスキルをなるべく早く身に着けられるよう体系化し、ビジネスデザイナーを最速で教育するためのスキームを作っています。

ビジネスデザイナーの持つ具体的な3つの能力

ビジネスデザイナーは新規事業を実行すると書きましたが、では具体的にどのようなスキルが必要なのでしょうか。SEEDATAではとくに以下の3つスキルが必要であると考えています。

1.事業推進計画書作成スキル

この事業推進計画書は一般のコンサルが作る事業計画書とは少し異なります。

一般的な事業計画書は5か年計画や中長期的な計画、つまり「こんな事業になってほしい」というトップダウン型の理想論を描くものです。最終的な事業構想のレベルで書くため、市場規模や事業規模が大きく見えますが、実行に落とすのは難しくなります。

一方、SEEDATAの事業推進計画書は、起業家や新規事業担当者、社内起業家たちが、明日どんな行動に移せばいいのかがすぐわかるような計画書になっています。

最終的な事業案ではなく、「まず何から始めるべきなのか」という必要最低限の事業=MVP

をどのように実行していくかを示している計画書です。

一般的な事業計画書は、いきなりAmazonのプラットフォーム構想のような壮大なものを描きがちです。Amazonは今やありとあらゆる商材の仲介を行っていますが、そのような巨大プラットフォームを作ろうとしても、まず何をすべきかが分からなければ実行に移すことはできません。Amazonを例にとるならば、「まず最初に書籍をECで売る」ことからスタートするという部分を書くのがMVPであり、どうやって書籍を売っていけばいいか計画を書いたものが事業推進計画書です。

Amazonが書籍からスタートした理由としては、書籍は食品などと比べると基本的に売れるまで在庫を抱えておいても品質が劣化することはありません。また、かつては欲しい本を購入するために本屋を巡らなければいけないという課題があり、それを解決したのがAmazonだったので、消費者への価値もありました。

この消費者の課題を解決したことでAmazonは多くの人から支持され、顧客を囲いこんだ後、ほかの事業にも拡大したからこそ、今日の成功があるのです。

このように、まず最初に何から始めるかを書くのが事業推進計画書です。しかしこの「新規事業を実行するために明日何をするか」という部分まで落とし込むことができる人材が残念ながら今の社会には不足しています。だからこそ世の中からビジネスデザイナーが求められているのです。

2.新規事業の構築スキル

上記の事業推進計画書をもって、実際に大手企業の新規事業担当者や社内起業家と一緒に新規事業を構築していくスキルです。SEEDATAで、MVPの実装、PoC、PoBと呼んでいるものです。

コンセプト価値をどのように検証していくか、ビジネスをどのように成立させていくかを一緒に検証しながら、伴走するのがビジネスデザイナーの役割です。

ここで何故、ビジネス「デザイナー」と呼ばれているのかを考えてみましょう。

デザインという言葉にはさまざまな意味がありますが、デザインにとってもっとも重要な機能は「引き算」であり、引き算の美学こそがデザインなのです。

ドイツの家電製品デザイナーであるディター・ラムスの発言に「Less but better」というものがありますが、「ものごとはシンプル化して洗練させることでクオリティアップにつながる」という意味で、まさにデザインの本質をついた言葉といえるでしょう。

一般的には少なくするということは機能がなくなるので不便になるのではないかと思われがちですが、たとえばiPhoneは、もともと携帯にあったボタンを引いて今のように洗練されたといえばみなさん納得されるでしょう。

実際昔と比べると家電はどんどんシンプル化されているという歴史があります。これは基本的にこれまでプロダクトの中でいわれてきたことですが、新規事業においても同様です。

よくありがちなのが、事業アイデアを考える際に「あれもこれも」と足し算して、実行がどんどん難しくなっていくパターンです。頭の中は複雑になり、整理されていないため、実行に落とすのが困難になってしまうのです。

そこでやらなければいけないのが、「明日やることを決めるために、やらないことを決めていく」という引き算です。

MVPを作るというのは全体の事業から9割を引くことです。これがアートな部分であり美学です。

どこから始めていけばいいのか、どこを引いていけばいいのかは今の段階ではまだまだSEEDATAのビジネスデザイナーの暗黙知(形式知化されていない分野)で、こうすべきというメソッドが現状あるわけではありません。実際に経験のあるビジネスデザイナーと一緒に始めていくことこそが効果的であり、効率的に一緒に事業を作っていくことができるのです。

3.ビジネスコーチングをするスキル

新規事業担当者や社内起業家向けにビジネスコーチングをするためのノウハウやスキルです。

通常のコンサルタントはある意味企画屋のため、実際に自分は行動に移したことがない人も中には存在します。

それに対し、ビジネスデザイナーは実際に新規事業を作っている人たちなので、どうやって作っていけばよいのかはもちろん、もっとも重要な「失敗した経験」をもっています。

自らが失敗した経験が何故重要なのかというと、コンサルタントは提案はしますが自分が直接的に失敗したことがないため、本や他人から聞いた経験からのアドバイスはできても、自分自身の失敗からはアドバイスすることができません。

ビジネスデザイナーは自身が失敗した経験をもとにコーチングできるため、説得力もあり、実践的だともいえます。

以上の3つが大きくSEEDATAのビジネスデザイナーの役割や、持っているスキル、ノウハウになります。

SEEDATAではこのビジネスデザイナーに最速でなれるメソッドやノウハウを現在構築中です。

これまでの場合、基本的にビジネスデザイナーになるためには通常10年ほどの歳月が必要でした。

何故なら新卒で入社して新規事業を担当するとしても、まず事業計画書を書き、企画に2、3年ほどかけ、事業構築の説得を行い、10年くらいかけて知識や経験をためていきます。それも運の要素が大きいため、なかなか個人では知識やノウハウを溜めるのは困難だったという歴史があります。

SEEDATAは個人の知識や経験に頼るのではなく、トライブやFuture Wave、ビジネスインサイト(儲けの仕組み)のデータをストックしているため、そのデータを急速にインプットすることで、一気にビジネスデザイナーとしての知識や経験を身に着けることが可能です。そのうえで、実際の事業構築に携わることで、普通は10年かかるところを、数年でスキルやノウハウを手に入れることができる仕組みを作っています。

当然知識だけでなく、実際に新規事業の実装を行うという実務的なコーチングも可能になります。

さらに個人の知識を暗黙知として溜めておくのではなく、外に出して組織知としてデータベースに還元していくことで、ひとりではなく全員がレベルアップしていくというスタイルも特徴のひとつです。

とくに前述したようにビジネスデザイナーは、まだ形式知化されていない部分が大きいため、暗黙知を共有していくという文化が重要になります。

これまでのような競争スタイルはもはや古く、ひとりが強くなったらそれを他者に還元していく仕組み作りが次世代のビジネスデザイナーの組織には求められているのです。

【関連記事】

【ビジネスのためのサービスデザイン①】 製品のサービス化を実践していくためには?

ロベルト・ベルガンティ『突破するデザイン』にみる、”意味のイノベーション”とは?①